Chord Electronics 社の創立は1989 年ですが、私自身の中でChord というブランドはその更に10 年ほど前に遡った頃からスタートしています。当時、航空機エンジン用電源装置の開発にチームリーダーとして関わっていた私は、大出力、高能率を追求しかつ可能な限り小型化する、というミッションに日夜取り組んでいました。最先端の設備と優秀な研究技術者が揃ったチームで自己研鑽を積むことができる素晴らしい環境でした。しかし、それだけにプレッシャーも重く、自分をリセットする時間が必要であり、その格好の対象となったのがパワーアンプの製作だったのです。デスクの引出しにはエンジン用電源とは似て非なる設計図をしまいこみ、折を見て開けてはそれに見入ったり、加筆したりするのを楽しみとしていたものです。休日はその設計図をもとに製作した「作品」を何度も何度も作っては壊す、壊しては作るといった具合で、そうこうしているうち、自然にいつか自分の製品を世に出したいと思うようになりました。

Chord という社名は当時から心に決めていたもの。心の琴線に触れる、という時の「琴線」にあたるのが、Chord です。楽器の弦のことでもあります。私にとって、オーディオは音楽のエモーションやエネルギーを余すところなく伝えるための道具であり、楽器のようなものです。

アイディアから10 年後、Chord Electronics を立ち上げたときには、すでに第一号機が生まれていました。当時はスイッチング電源搭載というと、オーディオに詳しい人ほど眉をひそめたものです。しかし、音を聴いたとき、想像とは異なる印象を記憶に留めてくれた人も多かったと思います。それからは、とにかくどんどん進化させることに注力しました。電子部品の性能も飛躍的に向上、世の中の流れも後押しする形でスイッチング電源はオーディオ機器の電子回路を駆動するエンジンとして理想に限りなく近づいてきています。ディジタル・オーディオが主流となった現代は、再生帯域の拡大と設置環境やライフスタイルの変化によるエンクロージャの小型化という、相反する要求を同時に満たすスピーカーシステムが求められています。このため変換効率は低下する傾向となり、当然、パワーアンプにはより大きな出力を期待することになります。しかし、実際にはアンプの出力も無限大に増大することはできないのであり、そうした制約から解放されるためにも、機器自体の電力伝達効率をいかに上昇させるかが重要な課題です。

音楽は時の芸術。刻々と変化する音楽の要求するエネルギーがどんなに大きかろうと、軽々と、ほんの一瞬の動きも取りこぼさず空気へと変換する力があってこそ十全なパワーアンプである、といえます。とりわけ音と音との間。そこに潜むエネルギーの甚大さが無音の音となって現れてこそ、なのです。アンプを製品として仕上げる時、必ず最後には試聴を何度も繰り返す必要があるのは、こうした性能はスペックには現れてこないからです。Chord のパワーアンプが数々のプロフェッショナル録音スタジオ等に導入されたのは、演奏者を目前にして生の音楽を耳にしている彼らが、その場に溢れているエネルギー込みで再生するChord を認めてくれたからだと自負しています。

私は「プロのための」アンプ設計はしません。音楽を愛し、そこにあるエモーション、エネルギー、命を表出させるのだ、という目的の下にはプロ用、コンシューマー用の相違はないと思うからです。Hearing is believing. やればやるほどより深く信じることができるから、新しいアイディアもどんどん浮かんできます。これからも皆さまの人生のよき伴侶となるような製品を作り続けていきたいと考えています。

Chord Electronics 代表John Franks May07





















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